【いばもりネットワーク団体活動紹介】「NPOともに歩む認知症の会・茨城」

2022年11月23日に実施した認知症やみまもり活動についての学びを深める「つどい」にご登壇いただいた、いばらきみまもりあいネットワーク団体「NPOともに歩む認知症の会・茨城」の代表の澁谷史子さんとメンバーのみなさまに、取り組みやその想いをお伺いしました。

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▲取材時の「認知症カフェ オレンジサロン」の様子

Q1 澁谷さんは「NPOともに歩む認知症の会・茨城」代表として、認知症の方々の支援事業をいくつも行っています。その取り組みをご紹介ください。

澁谷 この認知症カフェオレンジサロンは認知症ご家族の場として、毎月第3日曜に交流会を行っています。平成28年頃から開催し、7年くらい続けていますね。コロナの影響のあった3年前からオンラインも併用しています。大体10〜15人くらいの方が参加されます。

―どんなお話や交流をされるのですか?

澁谷 一人一人近況をお話しいただいて、それに対して参加者の方がコメントしたり、経験をお話ししたりしています。それと、年に1回くらいは、学習会を企画しています。季節に関連して、たとえばこの間はお盆の季節だと、お墓や仏具、看取りといったテーマで。どんなテーマで行うかも、オレンジサロンの中でみなさんにもお声がけして決めますね。

―オレンジサロン以外にもやられている活動はありますか?

澁谷 当初認知症カフェは2ヶ所で開催していました。今日はご家族の場ですが、認知症当事者の方と一緒にお料理をする場もつくっています。ご本人も家族も一緒に1日過ごすんです。一緒にご飯を作って、こういった交流会やレクレーションみたいなことも行っていました。ただ、今はコロナの影響でそちらの活動はお休みしています。
 この活動を楽しみにしてくださっている方もいて、グループホームに入所している奥様を旦那さんが連れて来て、ここで一緒にご飯を食べてホームに帰る、ということもありました。
 また、地域向け認知症カフェとして茨城県看護協会さんの受託で「となりの縁側」という活動も運営していて、「オレンジサロン」と「となりの縁側」が今のメインですね。
 他に、年に数回、認知症に関する講演会や学習会などを企画しています。パルシステムさんに支援していただき、毎年講師の先生をお呼びして講演会を開催しています。また組合さん向けにシナプソロジーという脳トレを筑波大認知力アップデイケア講師の先生と一緒にやらせていただいたこともあります。

―様々な組織と連携して活動や企画を行っているのですね。

澁谷 そうですね。
 認知症に関わる個別相談なども行っています。市報に相談案内を掲載いただいたことがありましたが、そこから認知症ご家族の方からの相談で、認知症当事者の方に合ったグループホームの転居を行政と連携して行ったこともありました。その方はその後もオレンジサロンに来てくださっています。

Q2 澁谷さんご自身は、どのようなきっかけでこの活動を立ち上げ、どんな思いで続けてらっしゃいますか?

澁谷 私の両親が認知症になり、介護のことがわからなくて悩んだ時期がありました。同年代のママ友さんにも経験者はいらっしゃらないので話題にもできませんでした。そのようななか、市報で認知症家族の交流会の情報を見つけ、やっと参加できたのですけど、そこで交流の大切さを知り、また今の活動メンバーとの出会いもありました。いろいろお話ししているうちに、自分たちでも主催したいという思いが高まってきたんです。

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▲代表の澁谷史子さん

―どうしてご自身たちで活動を新たに立ち上げようと思ったのでしょうか。

澁谷 参加し始めたのは今から13年くらい前ですが、当時は、家族が大変という思いを共有するという場はありましたが、認知症ご家族やご本人が主体的に発信する、ということは少ない時代でした。
 私たちの出会いの中に、「レビー小体型認知症(※1)」当事者の平さんがいらしたことで視点が変わりました。平さんは、「幻視がこういうふうに見えるんだ」「後ろから声をかけられるとすごくびっくりするんだよ」など、本人目線で言ってくれるんです。私の父もレビー小体型だったので、ケアの仕方や考え方が変わったんです。父に対する接し方や、父はこういうふうに思えているのかもしれないとか、すとんと理解できた。認知症の方ご本人も一緒に交流することで介護者も理解が深まってケアが変わるんだなということを知って、じゃあ私たちの考える活動をつくっていこう、となったわけです。

 たとえば、ご本人が怒りの感情が爆発してどうしようもなくなることがあるんですけど、ご自身もそれで悩んでいるというお話があったりすると、それをご家族や周囲も知っているかどうかによりかなり心の持ちようが違うと思います。

―それで活動を2015年に立ち上げて、2017年にNPO法人化されたんですね。認知症ご本人の方が発信することがかなり画期的だったと感じられます。

澁谷 私自身は両親の介護が大変で、仕事は続けられず、介護離職を経験しています。でも、ボランティア活動ならある程度采配できるので、介護と両立できるのではないかと思ったんです。調理師と栄養士の資格を持っていたので、食に興味がありパルシステムさんの食育活動に参加しました。そこで組合員活動を知り、今の仲間に組合員になってもらい組合員活動室を認知症カフェの場として使わせていただいたのがスタートです。

Q3 活動を始めて、ご自身やメンバー、皆さんにどんな変化があったなと思いますか。

澁谷 自分の気持ちをためないで発して、聞いてもらえて、理解してもらえることで、気持ちがすっきりするということはあったりしますね。
 また、オレンジサロンに参加するご家族の方々が、1回、2回、来るごとに顔の表情が明るくなってくるんです。例えば専門医の方に認知症のご家族をちゃんと診てもらう大切さを知っている参加者が、その大切さやそれで私たちは変化があった、とお話ししたんです。それで他の参加者の方も専門医の方のところに行ったら、認知症の方の症状が変わってきて、ご家族の表情もみるみる変わっていったことがありました。
 そんなふうに、諦め思考になっているところに新しい知識が入ってきたり、実際にやってみたりして悩みながらも少しずつ前向きになっている皆さんを見て、お互い変わってくるみたいなことがあります。

 認知症の本では「できなくなる、わからなくなる」ことが多く語られていて、それだけだと怖いと感じています。進行にも段階があるということをこういう場で学ぶことができれば、その時期を、その時間をできるだけ楽しく笑顔で過ごしていこうよ、最期は最後として誰も同じにやってくるのは仕方のないことなんだから、というふうに人生としての捉え方が変わるといいんじゃないかなと思うんです。また、家族が亡くなり介護が終わっても継続して参加して下さる方もいらっしゃいます。自分の介護の経験を話すことがグリーフケアにもなっているのかなと。

 そういうしなやかな考え方というのはなかなか本だけでは気づけないですよね。今はもうないかもしれないけど、昔は認知症になると5年でもうわからなくなってしまう・・というのが通説みたいなところがありましたし。

澁谷 そうですよね。 あとはおそらくここ10年20年は寿命が伸びていますので、おそらく認知症になるくらいまで人々が生きられるようになったというところもあるなと思います。それで認知症や脳の分野の研究も進んできて、社会的にも捉え方は変わってきている気がします。

―そういう点で社会や通説も変わってきているんですね。その中でみなさんの活動があることで相乗効果が生まれているように感じます。

 近年は軽度認知障害、認知症の前段階みたいなこともメディアでもだいぶ言われてきているので、気にされる方がここ数年多くなってきたとも思います。
 今までは認知症を知られてはいけない、という感じだったのが、いいんだよ、普通の病気なんだよということがまだまだ少しですが、発信され始めてきたかなと。

澁谷 私の父がレビー(小体型認知症)を発症した頃は、ドクターでもレビーを知らない方がいましたが、ここ10年くらいで認知度は上がりましたね。メディアで認知症が取り上げられるようになり、ドクターも無知ではいられなくなっています。あと、ネットでも調べられるようにもなりました。「もしかしたら私も認知症かも」と自らドクターに相談できるようになったのも大きい変化と感じます。

 忘れるというのは怖いことではあるけど、考え方の角度をちょっと変えるだけで一変するんです。性格や考え方を変えなきゃということではなく。そこを認知症当事者やご家族だけでなく、社会も理解することで、さらに変化していくんじゃないかと思います。

 昔は家族が多かったから、ご家族で認知症の方がいても、皆で手伝ってあげればなんとかなってたんですけど、今はなかなかそうもいきません。でも、今と昔で違うところは、今は身近に便利なアイテムがいっぱいあるんです。

 私は時系列分からないのでタイマーをよく使いますが、薬の時間などはタイマーに入れておく。そんな感じで、今の時代だからこそできることがあって、だから何も暗い気持ちになることもないし、悩む必要もないと思うんです。失敗してたことがそうやって1つ成功する。その時の喜びは、若い時には味わったことのない経験なんですよ。失ったものをもう1回できるということは、これは認知症になってみないと分からないですよ。

 当たり前だった世界が当たり前じゃなくなった時に落ち込むんじゃなくて、もう一度立ち上がる力、それが1番大事だと私は思っているので、だからあまり深く考えていない(笑)性格がそうなのかな。

―できなくなったことも、それに代わるアイテムを見つけて、チャレンジし続けるということは素晴らしい考え方ですね。それができる時代になったというのも大きいんですね。

 靴の紐が結べなくなったら紐なしの靴がある、ボタンが締められないならボタンなしでストンと着やすい服が今はいろいろあります。準備に手間取るなら手帳をつけるようにしておくと習慣化しますが、それもやがて書けなくなったとしても、スマホのメモ帳や、音声入力もできる。そうやって何が代用できるかな、と考えること自体が脳トレ。だから、ボーっと生きていそうでボーっと生きていないんですよ。

Q4 いばもり活動との連携や、いばもりネットワークに対しての思いや期待などを一言いただけますでしょうか。

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▲左から 平さん、澁谷さん、寺門さん

澁谷 多くの方に認知症について正しく理解してもらいたいですね。
 いばもりネットワークで活用促進している「みまもりあいアプリ(※2)」も、皆さんが見ることが多くなれば、認知症という症状や当事者のことを気にする人も多くなるので、アプリが目に触れる機会が多くなってほしいと思っています。
 とにかく認知症を正しく理解すること、偏見をなくしていく、というところを、いばもりネットワークを通して正しく伝えていただきたいと思います。

―ありがとうございました。

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▲令和4年度活動リーフレット


※1 レビー小体型認知症

引用 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/lewy.html

老年期に認知症を呈する病気の一つで、変性性(脳の神経細胞が原因不明に減少する病態)の認知症では、アルツハイマー型認知症についで多い病気です。高齢者の認知症の約20%を占めています。早い方では40歳ころから発症する人もいます。

記憶障害を中心とした認知症と、動作が遅くなり転びやすくなるパーキンソン症状、繰り返す幻視がみられます。しかし、患者自身には病気であるという認識がありません。男性の方が女性の約2倍発症しやすく、他の認知症と比べて進行が早いのが特徴です。

※2 みまもりあいアプリ

https://mimamoriai.net/

いばらきみまもりあいプロジェクトでは、主な取り組みとして、認知症高齢者の方や障がい者・子どもが一人で行動中に行方不明になったときに、地域の協力者とともに早期発見につなげることができる「みまもりあいアプリ」「みまもりあいステッカー」の2つの仕組みを広く普及させ、見守り合える街作りを支援しています。