認知症(フレイル)と地域社会力

今、人生100年時代を迎え、超高齢社会と言われて久しくなりました。認知症は誰の身にも起こり得る課題となっています。
家族が、ご近所のかたが、自身が、認知症になるかも知れない・・・私たちはどのように心構えをしていけばいいのでしょうか。
今回は、認知症と地域社会力をテーマに、茨城県生涯学習・社会教育研究会会長(元茨城大学准教授)長谷川幸介氏のお話を紹介します。

1.一人では生きられない人類が 700万年の旅で身につけてきたもの

ご存知でしょうか。人類は進化によって、繋がりがなくては生きられないようになっていきました。
700万年前にチンパンジーと枝別れして二足歩行を始めた人間は、頭蓋骨が大きくなり、脳量が増えました。すると出産が大変になったのです。

赤ちゃん

そうなると、他の哺乳類のように生まれてすぐ立ち上がれるまでお腹の中で子どもの成長を待てず、“1年間の早産”ともいえる未熟な状態で生まれるようになりました。
出産には母親も痛みを伴います。そして母親は一人では子育てできないようになっています。

それには3つのホルモンが関係しています。

1つは痛みを堪えられるようにする「エンドルフィン」という幸福ホルモン。
2つ目が「エストロゲン」で、周囲の女性に協力を促すホルモンです。
3つ目がスキンシップでも出ると言われている「オキシトシン」。

共に子育てする上で、
父親がオキシトシンを出すのが特徴です。

次に、人間は7万年前に言葉を手に入れ、イメージを共感できるようになりました。
実体験がなくても共感できるのです。
これを「認知革命」と呼んでいます。

続いて大きな進化が起こったのは1万5千年前、食料問題を克服するため、地球環境に手を入れ、農業を始めました。

畑
                             
そして定住することで地域社会ができました。社会は人間がつながるための仕組みで、「人類の幸せ装置」といえます。
ところが人がつくる社会には様々な「同調圧力」が生まれます。

その中に認知症の課題があり、どうやって対応したら幸せになれるかということになります。

2.私たちの課題を受け止める4つの網=縁

では、「人類の幸せ装置」となる地域社会とはなんなのでしょうか。

人類のつながりは大きく分けて4つあります。
「血縁」(家族)「地縁」(地域)「友縁」(友達や知り合い)「職縁」(仕事)です。

人間は人生の中で、生活課題を抱えながら暮らしています。いくつかの縁が絡まり合いながら、私たちは一つの課題に対応しているのです。

4つの縁(えにし)の中に、「認知症」という課題が起きた時に何がおきるのかを考えてみましょう。

4つの縁を網に置き換えてみましょう。

この網の上に「認知症」という課題が落ちてきた時、4つの網(血縁・地縁・友縁・職縁)があることで受け止められます。(図右側①)

4つの縁

孤立すると「無縁」が大きくなり、課題が素通りしていきます。
逆に4つの縁が大きくなると、いろんな生活課題が受け止められます(図左側②)。

認知症の課題の受け止めにも「4つの縁の力」が必要になるのだと思います。

ではどのようにその「4つの縁の力」を強くすればいいのでしょうか? 

それには「3つの免疫」がカギを握っています。

1つ目は「身体免疫」。ウイルスと戦うために人間は身体の免疫力を作ってきました。
2つ目は「心の免疫」。人間は一人では生きられないから、人とつながるということが遺伝子に入り込んでいます。何気ない言葉をかわすのも、この免疫を上げることになるのです。
3つ目が「社会・地球の免疫」。地球の免疫とはいわゆる生態系のことです。

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この免疫の話を踏まえた上で、「4つの縁の力」の「血縁」、つまり家族や親戚の縁を考えてみますと、これらの免疫機能を果たしているでしょうか?
家族同士の無関心や、対話がなく気持ちが疎遠な関係―「家族免疫不全症候群」になっていませんか?

「地縁」はどうでしょうか。近年、個人主義的な考え方が幅を利かせ、この縁も不全になっているような気がしています。
私たちは今、「3だけ」(今だけ・自分だけ・お金だけ)という現象と戦っています。この個人主義的考え方―「3だけ」は、つながりを拒否してしまいます。その現状を変え、「4つの縁の力」を高めていくことが重要です

3.認知症はみんなの課題 畏敬の念を込めて正しく畏れる

人間には寿命があり、年を取ると細胞が弱くなります。フレイル(加齢による虚弱)と付き合う姿勢が大切です。

人生100年時代となり、長寿によって、認知症が発症するようになりました。昔はそこまで生きられなかったのです。長寿であることはすごいことです。フレイルも命の仕組みと言えます。

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私たちは「不明」だから「不安」になり、
不安だから「不信」になる。
不信から「不満」が出てくる。

上記の「4つの不」の鎖を乗り越え、認知症の仕組みをわかってから付き合うことが大事だと思います。そうすれば認知症は怖くありません。畏敬の念を込めて正しく畏れることが必要です。

人はいつだって、新しい課題を「つながりあって」解決してきました。

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認知症は「身体の免疫」の側面では、予防医学の解明が進み、体と頭を一緒に動かすことで進行を遅らすという研究結果も出てきています。
また、「心の免疫」は「つながり」の中から新しい共生の方法が生まれてきています。「社会の免疫機能」を見ると、認知症対応の総合化の試みが始まっています。
地域のみまもりあいや、認知症サポーターなどの制度もそうです。

認知症はみんなが当事者です。

医療、福祉、暮らしなどバラバラだったものを一緒に対応し解決の方向性に導いていくことが今の社会には必要なことだと思います。

4.老いることと一緒に「寄り添える力」を作っていく

認知症は特別なことではなく、我々も含めた動物にとって当たり前のことです。他の動物は、認知症になる前に寿命が来るだけのこと。認知症の当事者も、支えることも長寿の結果です。

認知症患者の方への寄り添い方には2つあります。

1つは同情するだけの「sympathy」。

もう1つは、その人の痛みを分かった上で寄り添う「empathy」です。

同情だけでは共感できません。
「sympathy」(同情)ではなく「empathy」(共感)の視点が私たちの活動の根幹になります。認知症(「老いる」こと)とともにある考え方と、寄り添える力を作ることが重要です

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おわりに「認知症対応から何を学ぶのか」

私たちは認知症の人と関わりながら「生き方」を学んでいます。

人はみんな老いていく、その時周りはどうあるべきか……。

まさに認知症対応の文化を作っている際中です。

私たちは長寿の結果、「認知症」という新しい課題を抱えることになりました。

皆さんの活動、日々の行いが新しい文化を作り上げることにつながっています。

いばらきみまもりプロジェクトでは、認知症でも暮らしやすい地域社会を作るためにネットワークの構築を目指しています。みまもりアプリの活用で助け合いの仕組みを広げ、地域で見守り合える街づくりを支援しています。
活動に関する情報発信等も予定していますので、いばもりサポーターへの登録をよろしくお願いいたします。